学校では教えてくれない。セラピストが知らない腸脛靭帯の機能解剖学!!

臨床をしていると、腸脛靭帯が問題になっているケースは非常に多い。
でも、腸脛靭帯について詳しいことは知らない。
- 腸脛靭帯は硬かったらダメなのか?
- 硬いからといって、がむしゃらになって緩めていませんか?
こんなことしていたら危険です!!
今回は、腸脛靭帯の機能解剖学を解説。
そして、実際の臨床場面で多い腸脛靭帯が問題になっているケースの例も紹介しながら説明します。
目次
学校では教えてくれない腸脛靭帯の解剖学
腸脛靭帯の起始部
- 大殿筋
- 中殿筋
- 大腿筋膜張筋
腸脛靭帯は、大腿筋膜張筋から腸脛靭帯に移行していくのは有名な話ですが、実際には大殿筋、中殿筋、大腿筋膜張筋の3つの筋肉から派生しているのが正しい解剖学です。
そして、大腿筋膜張筋から腸脛靭帯に移行している割合が大きいというのは勘違い。
大殿筋、中殿筋、大腿筋膜張筋の3つの筋肉の中で、腸脛靭帯と最も連結して関わりが深いのは大殿筋。
大殿筋の線維の80%は腸脛靭帯に移行しています!!
つまり、腸脛靭帯に1番連結しているのは大殿筋のため、大腿筋膜張筋以上に大殿筋の方が腸脛靭帯に影響を与えやすいということ。
外側筋間中隔と付着しているチェックポイント
腸脛靭帯(ITB)の後方部分に丁度位置しているのが、外側筋間中隔です。
外側筋間中隔と付着しているということもチェックしておくポイント。
腸脛靭帯は、外側広筋の上方に位置しているのは誰もが知っている解剖学だと思います。
しかし、腸脛靭帯は外側筋間中隔を介して大腿骨外側にも付着しているのが事実です!!
外側筋間中隔とは?
大腿二頭筋と外側広筋を隔てている場所
- 大腿二頭筋は膝関節を屈曲させる筋肉。
- 外側広筋は膝関節を伸展させる筋肉。
つまり、外側筋間中隔は、屈曲筋と伸展筋の間になる部位であり膝関節の筋力や関節可動域にかなり関わる部位です。
そして、ストレスが生じやすく癒着や滑走不全が生じやすい部位としても有名。
だから、腸脛靭帯に異常が生じれば外側筋間中隔に問題が生じますし、外側筋間中隔に異常が生じれば腸脛靭帯に機能不全が起きるということです!!
外側筋間中隔について動画で解説
腸脛靭帯の停止部(ガーディー結節)
- 膝蓋骨外側
- 膝蓋腱外側
- ガーディー結節
腸脛靭帯の停止部はガーディー結節。
ガーディー結節という場所を聞いたことがない人は多いのではないでしょうか?
ガーディー結節の位置としては、脛骨粗面外側!!
そして、腸脛靭帯の遠位部や停止部付近では、上記の3つの部位に付着していることを理解しておく必要があります。
膝蓋骨外側や膝蓋腱の外側に付着している腸脛靭帯のため、腸脛靭帯が常に緊張している状態が続くと、パテラや膝蓋腱を外側に引っ張る力が働き、外側変位が生じる原因にも繫がる。
少し詳細に腸脛靭帯(ITB)の遠位部の解剖学について解説をすると…
ガーディー結節にも付着するのは事実ですが、腸脛靭帯の遠位部は3層構造になっています。
- 表層線維:膝蓋骨表層と膝蓋骨外側
- 中間層:ガーディー結節前方部分
- 深層線維:ガーディー結節後方部分
この3層構造になっています。
この腸脛靭帯の付着部が脛骨にあるということがポイントであって、腸脛靭帯の牽引によって下腿外側筋膜の緊張にも繋がります。それによって、膝蓋下脂肪体など柔軟性の変化にも繋がります。
だから、臨床では、この3つの部位と腸脛靭帯との関連性を評価していく必要があります!!
【腸脛靭帯の解剖学】
・近位部:中臀筋、大臀筋、TFLと連結
・中間部:外側筋間中隔と連結し大腿骨に付着
・遠位部:外側広筋、大腿外側上顆、膝蓋骨外側、ガーディー結節
意外と色んな場所と連結しているので押さえておくポイント!!
— 薬師寺 偲 Shinobu Yakushiji (@gmawgmaw) October 31, 2017
腸脛靭帯と大腿骨間の脂肪組織
腸脛靭帯と密接に関与する組織として、、
大腿外側の脂肪組織。
腸脛靭帯と大腿骨外側上顆との間に脂肪体が存在します。
この脂肪隊の硬さがあることで、
腸脛靭帯の可動性の低下を引き起こし、疼痛の原因や膝関節の関節可動域制限の原因に繋がってきます。
脂肪体の役割としては、、
血管や神経の保護や組織の緩衝材の役割があるため…
脂肪体の硬さによって周囲組織の機能不全にも繋がってくるというわけですね。
腸脛靭帯の機能と役割
- 大腿骨頭を臼蓋に圧迫して股関節を安定させる
- 膝関節の外側安定化機構
腸脛靭帯は、硬いとダメと思っているセラピストが多いように感じますが…
実際は腸脛靭帯は大腿部の筋肉の圧力の調整や股関節や膝関節を安定させる機能があるため、むしろ腸脛靭帯はある程度緊張しておくべき組織。
腸脛靭帯は硬いとダメだと思っている人多い。
実際は、腸脛靭帯の張力があることで、
・大転子を臼蓋に向けて圧迫することで股関節の安定性に繋がる。
・膝関節完全伸展〜屈曲30°の範囲内で膝関節内反制動効果がある。腸脛靭帯は、股関節伸展・内転・外旋位で硬くなり緊張しやすい。
— 薬師寺 偲 Shinobu Yakushiji (@gmawgmaw) November 7, 2017
そして、上記の2つが主な腸脛靭帯の作用になりますが、
大腿骨頭と臼蓋はしっかり噛み合った状態にあることで股関節としての正常な作用ができ、膝関節においてもある程度の緊張があることで膝関節を安定させます。
だから、むやみに硬いからといって緩めるというのはめちゃめちゃリスクになるということ。
硬いから緩めたらいいという問題ではない。
硬さを作っているのには原因がある。逆に意味のある硬さもあるし、代償のために硬さを作っているケースもある。
硬いから緩めるというセラピストが多いし、そんなことしてたら上手くいくこともあると思うが、全く考える力が付かない。
— 薬師寺 偲 Shinobu Yakushiji (@gmawgmaw) November 1, 2017
そして、異常に高い緊張があったり、逆に緩かったりすると色々な障害が生じてきます。
また、腸脛靭帯の作用として、
- 膝関節屈曲 → 後方に滑走
- 膝関節伸展 → 前方に滑走
膝関節の動きに関わる腸脛靭帯だからこそ、屈曲する時や伸展をする時にどの様な動きをするかを理解しておく必要があります。
腸脛靭帯の「緊張するポジション」と「緩むポジション」
腸脛靭帯は、緊張しやすいポジション、緩みやすいポジションが存在します。
実際にこのポジションを知っておくだけでも、評価でも治療の場面でも活用できます!!
活用の仕方の一例ですが…
腸脛靭帯の伸張テストでもあるオーバーテストなど、腸脛靭帯を伸張したポジションに持っていった際の膝関節可動域評価と逆に腸脛靭帯が弛緩したポジションでの膝関節の可動域評価など条件を変えた状態での評価を行います。
この条件を変えた状態での評価において、、
- 痛みの変化
- 著明な可動域変化
この辺りが見られる場合は、腸脛靭帯が関与していると判断することが可能です。
腸脛靭帯の過緊張が原因で生じる障害
腸脛靭帯は、ある程度緊張をしておかなければいけない靭帯ですが、過剰な緊張はカラダに障害が生じます。
その例として、
- 弾発股
- 腸脛靭帯炎
- 脛骨の外旋位(下腿外旋症候群)
- 膝蓋骨の外側変位
これらが有名な腸脛靭帯が過緊張になった際に生じる障害。
弾発股は、腸脛靭帯の近位部の過剰な緊張亢進が原因になっていることが多くあり、上記の腸脛靭帯の緊張するポジションで生じることが多い。
そして、腸脛靭帯の停止部はガーディー結節。
ガーディー結節は脛骨粗面外側に位置するため、過剰に作用することで脛骨を外旋させる方向に力が働き、下腿外旋症候群の原因も1つにもなります。
ACLと腸脛靭帯の関連性
【ACLと腸脛靭帯の関連性】
ACLと腸脛靭帯は脛骨の前方変位を制御する作用がある。
だから、膝関節伸展時に脛骨の前方制動により、後方に滑らないと伸展制限に繫がる。
腸脛靭帯は硬いとダメなんじゃなくて、
腸脛靭帯は張力が合って初めて作用する靭帯。むやみに緩めたら逆にリスクになる。
— 薬師寺 偲 Shinobu Yakushiji (@gmawgmaw) November 28, 2017
ACLの機能は脛骨の前方変位を抑制する機能があります。
この脛骨の前方引き出しを抑制する機能ですが、ACLと協同して腸脛靭帯も作用することが知られています。
そして、この前方引き出しを抑制する作用も、膝関節が伸展位の時に働き、屈曲位ではそれほど作用しないと言われています。
大腿筋膜張筋と腸脛靭帯の関係性
大腿筋膜張筋は股関節屈曲、外転、内旋の作用がありますが、腸脛靭帯を介して膝関節へ作用します。
- 膝関節伸展位 → 膝関節伸展+内反制御作用
- 膝関節屈曲位 → 膝関節屈曲+下腿外旋作用
上記が膝関節への作用になりますが…
大腿筋膜張筋を介した腸脛靭帯の作用として、膝関節が屈曲位にあれば膝関節屈曲と下腿外旋に作用し、膝関節伸展位であれば、膝関節を伸展させ、膝関節を外側側副靭帯(LCL)と共に膝関節の外側安定化機構に関わります。
これを臨床場面で考えてみましょう。
膝関節伸展制限があり、歩行の立脚期を膝関節屈曲位で支持してしまう人。
このような膝関節伸展制限がある人は非常に多いと思います。
よく膝関節は絶対に5°でも伸展制限を作ったらダメで、完全伸展位を獲得する必要があると聞いたことがあると思います。
その理由として、腸脛靭帯が大きく関与しています。
上記の腸脛靭帯の作用をみて頂けると理解できると思いますが、膝関節屈曲位では腸脛靭帯は膝関節屈曲と下腿外旋に作用してしまうということです。
つまり…
立脚期を屈曲位で支持することで余計に腸脛靭帯の作用により膝関節を屈曲させてしまい、下腿を外旋させることで、膝関節OAのように内反制限が出来ず下腿の過外旋が生じことで、大腿骨を内旋してKnee inとなって膝関節が不安定になったり、大腿骨外旋させて、外側構成体のみで体重支持をするアライメントとなってしまうということ。
その逆として、
もし膝関節が完全伸展位を獲得できている状態であれば、腸脛靭帯により膝関節伸展作用を促すことができ、それに加えて、脛骨の前方変位を防ぐ作用も働くため、膝関節を伸展方向に可動して膝関節を安定させることに働いてくれます。
だから、膝関節屈曲位にあるか伸展位にあるかだけで腸脛靭帯の作用は真逆に働くため、完全伸展位を目指してアプローチしていく必要があるんです!!
動画での解説はこちらから↓↓
まとめ
腸脛靭帯は股関節・膝関節の全可動域に関わる靭帯です。
臨床で問題になるケースも多いのが事実なのでしっかりと腸脛靭帯の機能解剖学について理解しましょう。
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